ラットプルダウンとは、椅子に座り上方からバーを引き込むことで、広背筋や僧帽筋と呼ばれる背中の筋肉を鍛えるトレーニング方法です。背中の筋肉を鍛える、動かすことから「肩こりに効く!」といった指導をするトレーナーや、実際そのように感じている方も多いと思います。
結論から話すと、ラットプルダウンは肩こりに効果的であることが研究結果などからわかっています。
本記事では、ラットプルダウンが肩こりに効く理由について、論文などの研究結果を交えて詳しく解説していきます。
目次
ラットプルダウンで効く筋肉の部位とその理由
まずは、ラットプルダウンではどのような筋肉が使われるのかについて解説していきます。また、その理由を解剖学的な視点からも解説します。
後述する肩こりに効く理由についても直結する内容なので、しっかり確認していきましょう。
広背筋(Latissimus Dorsi)
広背筋は、上腕骨を引き下げ、肩甲骨を内側に寄せたり、肩を縦に引っ張ってくる動作によって作用する筋肉です。
ラットプルダウンでは、バーを引き下げる動作に対して、負荷が加わりますが、この動作は広背筋の主な機能であるため、効果的に鍛えることができます。
上腕二頭筋(Biceps Brachii)
上腕二頭筋は、肘を曲げる動作によって鍛えられます。ラットプルダウンでは、バーを引き下げる際に肘を曲げる動作が含まれるため、上腕二頭筋も活発に働きます。
僧帽筋(Trapezius)
僧帽筋は肩をすくめる時や、肩甲骨を寄せたりなどの可動が行われる際に使われる筋肉です。
ラットプルダウンでは、肩甲骨を引き寄せる動作が含まれるため、特に僧帽筋の下部が強く働きます。
菱形筋(Rhomboids)
菱形筋は、僧帽筋の中に隠れた筋肉で、僧帽筋と同様、肩甲骨を寄せる動き及び、固定する役割を担います。ラットプルダウンでは、肩甲骨を引き寄せて安定させる動作が必要となるため、菱形筋が効果的に鍛えられます。
三角筋後部(Rear Deltoids)
三角筋後部は、上腕骨(腕)を後ろに引く動作の際などに使われます。ラットプルダウンでは、バーを引き下げる際に三角筋後部が関与し、肩関節の動きをサポートします。
ラットプルダウンの効果
ラットプルダウンによる基本的効果は、「姿勢の改善」「血流の促進」「肩こりの改善」です。
ここではそれぞれの効果について、詳しく解説していきますので、まずはラットプルダウンの効果について理解を深めていきましょう。
姿勢の改善
ラットプルダウンにより広背筋や僧帽筋・菱形筋が強化されると、姿勢が改善されます。
実際に、多くの方は特に、猫背や巻き肩に悩んでいると思いますが、その理由は、体の前に付着する大胸筋などの筋肉が凝っていたり、背中の筋群とのバランスが悪いために、肩甲骨の位置がずれてしまったりといったことがあります。
そのため、ラットプルダウンによって、背中の筋群を鍛えることで、肩甲骨の位置が正しく保たれ、自然な姿勢を維持しやすくなります。
血流の促進
筋力トレーニングは筋肉への血流を増加させ、これにより筋肉の緊張や痛みを軽減することができます。その中でも肩甲骨周りは普段動かす機会の少ない筋肉が多く、より筋肉が凝り固まったり、血流の流れが悪くなりやすい部位といえます。
ラットプルダウンは、肩甲骨を大きく動かすエクササイズであり、より身体全体の血流を促進させる効果があるでしょう。
肩こり改善
肩こりとは、首や肩の筋肉が緊張し血行不良になることで痛みやだるさを感じる症状です。
つまり、ここまで解説してきたように、ラットプルダウンによって肩甲骨の位置が正しく保たれ、姿勢が改善され、猫背や巻き肩などの不良姿勢が解消されることで、肩こりの予防に繋がります。
さらに、ラットプルダウンは肩甲骨周りの筋肉を大きく動かすため、血流が促進され、筋肉の緊張や痛みが緩和されます。
このような理由から、ラットプルダウンは筋力向上と血流改善を通じて肩こりの症状を軽減すると言えるでしょう。
ラットプルダウンが肩こりに効く理由を論文を用いて解説
前述したように、ラットプルダウンは肩こりに効くエクササイズであることを解説しましたが、ここからはラットプルダウンが肩こりに効く理由について、論文を交えながら解説します。
肩こりと筋トレの関連性について
デンマークのオフィスワーカーに対して行われた研究では、筋力トレーニングが肩こり軽減に有効であることがわかっています。
特に、肩こりを軽減するための筋力トレーニングの頻度については、週に1時間のトレーニングを3回に分けて行うことが最も有効であることが示されています。
具体的には、週に合計1時間のトレーニングを3つの異なる頻度で行った場合の効果を調査した結果、どの頻度でも肩こりの痛みを軽減する効果があることが示されましたが、最適な頻度は週3回20分で実施した対象者が最も肩こりが改善されました。
この研究では、背中のトレーニングとして「ラットプルダウン」ではなく「シュラッグ」を使用していましたが、僧帽筋を鍛えたことによる効果が見られたため、ラットプルダウンでも同様の効果が期待できると言えます。
また、後述する論文からもラットプルダウンがより肩こりに効果的であることを示すのであわせてご覧ください。
姿勢改善による肩こりの軽減
Jandaら(1993)は、筋肉のバランスを改善することが姿勢の問題や関連する肩こりを軽減するために重要であると強調しています。
また、肩こりなどの痛みは、上部僧帽筋や肩甲挙筋などの肩甲骨周辺の筋肉の緊張と筋力低下によって引き起こされると指摘しています。
これらの筋肉のバランスや筋力低下、硬さを改善するためのエクササイズ、例えばラットプルダウンを取り入れることで、下部僧帽筋や菱形筋などの肩甲骨周辺の筋肉を強化し、姿勢を改善し、肩の緊張を軽減することができると言えるでしょう。
血流促進と痛みの緩和
Helgadottirら(2010)の研究に基づくと、筋力トレーニングは筋肉の血流を増加させることで、酸素や栄養素の供給を改善し、筋肉の回復を促進し、痛みを軽減する効果があることが明らかになっています。
このメカニズムをラットプルダウンに当てはめると、肩こりの緩和にどのように寄与するかが明らかと言えるでしょう。
実際、前述したようにラットプルダウンでは、僧帽筋や広背筋、肩甲骨周りの筋肉が強く刺激されますが、これにより、これらの筋肉への血流が増加し、筋肉内に溜まった疲労物質や炎症を引き起こす物質が効果的に排出されることが期待されます。
総じて、ラットプルダウンは、筋肉の血流を増加させ、痛みを軽減する効果があり、さらに姿勢の改善にも役立つため、肩こりの緩和に有効なエクササイズといえます。
肩が痛い人は悪化する可能性も
ただし、肩こりの原因や症状によっては、ラットプルダウンが逆効果になる場合もあります。
例えば、肩のインピンジメント症候群(肩峰下滑液包炎や回旋筋腱板炎など)がある場合、ラットプルダウンを行うこと自体が痛みを引き起こすことがあります。
このような場合は、無理にラットプルダウンを続けるのではなく、専門家の指導のもとで適切なエクササイズを選択することが重要です。
肩こりに効くラットプルダウンの回数や重量は?
肩こりのためにラットプルダウンを行う際の適切な回数は、、基本的には15回〜20回が限界になるような重さで行うようにしましょう。
ラットプルダウンは上方にある重さを引くトレーニングで、8回や10回が限界になる重さだと、重すぎるとも言え、肩が上がった状態で動作してしまうことがあります。
そのようなフォームだと、肩甲骨がうまく動かないために、結果的に刺激がうまく入らない場合があります。
また、ただ肩甲骨が動かないだけでなく、軽い重量で丁寧に行なった方が背中の筋肉を意識しやすくなります。
このような回数・重量設定でも筋肉は成長しますが、あくまでも筋肉を最大限肥大させるためのラットプルダウンとは異なると考えた方が良いと言えるでしょう。
まとめ
ラットプルダウンは、肩こりの改善に効果的である可能性があります。具体的には、筋力の増加、姿勢の改善、血流の促進といった要因が肩こりの軽減に寄与することが示されています。ただし、個々の症状や原因によって効果は異なるため、総合的なアプローチが推奨されます。肩こりに悩む方は、専門家の指導のもとで適切なエクササイズを行うことが重要です。